■#001│星屑村
むかしむかしのそのむかし――――。
辺境の星屑村という場所に、とても仲睦まじい老夫婦が暮らしていた。暮らしぶりは決して裕福ではなかったが、ふたりは穏やかで平穏な毎日を過ごしていたのだった。
ある日のこと。おばあさんが川で洗濯をしていると、それまでに見たこともないような大きな『桃』が川上から流れてきた。
(な、なんじゃぁありゃぁ…とんでもねぇ大きさの桃でねぇか…)
ドンブラコッコ、ドンブラコ
ドンブラコッコ、ドンブラコ
ドンブラ、ドンブラ、ドンブラコココ…
…ココ……コココ…?
………
……
…
…コココ コーコ コッコッコー!!!
コココ コーコ コッコッ コッコッコッコッコー!!!
コーコ コーコ☆ナーツ!!!
己の理解をはるかに超える存在を目の当たりにして理性が消し飛んだのか、元ダンサーとしての血がたぎったのかは分からない。しかし指先を嘴(くちばし)に見立てた奇妙な舞を踊り終えると、おばあさんはそのままザブザブと川に歩みを進め、大きな桃を川から拾い上げた。
夕方。柴刈りに出ていたおじいさんが山から帰ってきた。おばあさんから桃を拾った顛末を聞くと、おじいさんもその桃の大きさには驚いた。なにせ大人の腕でも回らないほどの大きさの桃など、かつて聞いたこともなかったからだ。
ふたりは夕食を済ませると、桃をいただくことにした。おばあさんが桃に少しだけ包丁を入れたまさにその刹那、桃がふたつに裂けて中から赤子が飛び出してきた。
「な、なんだってー!?」
こうして、おじいさんとおばあさんは、桃の中から玉のような赤ん坊が(しかも“エビ反り”をしながら空中に)飛び出してくるという異常事態の、人類史上初の目撃者となった――――。
もちろんふたりは驚きもした。がしかし、それよりも喜びが上回った。なぜならば、ふたりには子がなかったので、その赤ん坊を天からの授かりものとして大切に育てることに自らの使命を見出していたからだ。
「おばあさんや、この子の名前なんじゃが…桃から生まれてきた子なんじゃから『ももたろう』というのはどうじゃろう?」
「ええ、おじいさん。ほんにぴったりの名じゃと思いますよ」
「それにしてもエビ反りをしながら空中に飛び出してきた赤ん坊など聞いたことが無い。この子は将来何かの歴史を更新するような、大人物になるやもしれんなぁ」
ももたろうと名付けられたその赤ん坊は、おじいさんからアーティストの発掘手順、その育成方法、ブランディングに関する知識、販売戦略等のプランニングプロセスなどの手ほどきを受けた。また、おばあさんからは一子相伝の奇抜で独特なダンスを習ってスクスクと成長していった。
あなたはきっと『どれも鬼退治にはまったく関係のないスキルじゃん!』と思ったことだろう。しかし、ここはそういう『世界線』なのだ。そんなことにいちいち違和感を覚えているようではこの先“もたない”とだけ伝えておこう。
それはさておき、成長するにつれももたろうは村一番の力自慢になっていった。もはや力くらべでももたろうに勝てる大人は誰ひとりとしていなくなっていた。しかもそれだけではない。ももたろうは優しくて責任感も強い子に育ったため、村の人たちからも信頼され、とても可愛がられるようになったとさ。