■#001│白光音峠守備隊
ももたろう一行は、ついに青き丘の国との国境にある『白光音峠(ハッコウネトウゲ)』の目前までやってきた。
現在は『遮有土の森(シャーウッドノモリ)』という広大な森を踏破中だが、ここを超えると白光音峠のふもとにたどりつく。
白光音は昔から交通の要衝であるが、『天下の険(テンカノケン)』と謳われるほどの難所として知られている。そのため、白光音峠のふもとには古くから関所や宿場が置かれ、大きな賑わいをみせていた。また、近代以降は保養地・観光地として発展することになる。
ここにはかつて、青き丘の国の守備隊が関所に駐留していた。ゆえに閼伽凛皇女としては、ひょっとするとまだ一定以上の戦闘力を有した部隊が残存してるんじゃないか、という点に淡い期待を寄せていたのだ。
しかし、残念なことにその頃すでに駐屯地には組織的な軍隊は存在せず、白ネコの班長とキジの少女の二名が残っているのみであった。そのことは閼伽凛皇女の知るところではない。
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(今月も赤字か…我が部隊の兵站が脆弱なのは今に始まったことではないが、これでは坐して死を待つのと同義ではないか……)
「班長殿、只今戻りましたでありやーす!」
「おう、杏果二等兵。ご苦労であった。ではさっそく戦果の報告を」
「野兎を一匹、弓によって仕留めましたでありやす」
「ふむ、貴官は仕事は出来ないが、弓の腕だけは確かだな」
「え、自分そんなに仕事できませんか? それに弓だけじゃなくて歌もダンスも得意なんですけど」
「仕事できないって自覚はないのかぁ…だいたい歌もダンスもお前の任務に関係ないだろっ? これだからゆとり世代は…まあいい。ところで貴官は確か明日非番だったな…だが申し訳ないが、ちょっと仕事の依頼が入っているのだよ」
「ええーっ、班長そりゃないッスよぉ! 自分、前回も休みとれなかったんですから、こん…」
「シャーラップ!!!」
「ひっ!」
「ドンペリ開けてるセレブじゃねえんだぜ! こちとら働いてナンボだ、労働フォーユー!!!」
「い、イエス、サー…」
こうしたコントのような掛け合いも、ふたりにとっては安定の日常といったところだ。
さて、この後白光音峠守備隊の二人はももたろう一行に遭遇することになるのだが、それまでの短い時間でキジの女の子のエピソードをいくつか紹介しよう。