■#002│キジの女の子のエピソード
○新聞配達所にて
「兵隊さん、すんませんねぇ、朝早くから。ウチとこの配達員が怪我してしもうてな。しばらくの間、朝刊の配達を頼みたいんやけど」
「任せてください、新聞屋さん。自分は体力には自信がありますから」
「ホンマ助かりますわー。ほんで配達エリアはこの範囲やねんけど。それとこっちは配達先のリストとその住所や」
「こ、こんなに…?」
「驚いてはります? せやけどこれ全部を三時間くらいで配り終えて欲しいねんな」
「む、無理ですよぅ。どんなに急いで走ったって間に合わないですって」
「アハハ、だれも走って配れとは言うてないわ。あの自転車を使うてくれはります?」
「じ、…であり…す…」
「え? 何やて?」
「じ、自分は自転車に乗れないでありやす!」
「兵隊さん…」
「な、なんでしょう?」
「もうええわ。帰ってくれへん?」
「でーすーよーねー」
○幼稚園にて
「まぁ兵隊さん、お忙しいところすみませんことねぇ。インフルエンザでダウンしてしまった先生がいたもので、急きょ人手が足りなくなってしまったんですのよ」
「任せてください園長先生。自分は子供大好きですから」
「それで今日は『お絵かき』の時間を受け持っていただきたいの。参考の絵は描いてきてくださったかしら?」
「と、とりあえず自分が描いた絵を見ていただけますか?」
「はい。拝見させていただきますわね…おや?」
「いかがでしょう?」
「こちらはいったい何の絵でしょう…?」
「自分が自転車に乗って片手でバイバイしているところでありやす!」
(まあ! どうしましょう! この殺傷力はしょうこおねえさんの絵にも匹敵するんじゃないかしら…)
「いかがでしょう…?」
「兵隊さん…」
「な、なんでしょう?」
「大変申し訳ないのだけれど…今回のお話は無かったことに…」
「でーすーよーねー」
○小麦農園にて
「兵隊さん、すまない。僕の小麦畑にミステリーサークルが出来ていたんだ。それでしばらくの間、警備も兼ねて家畜の世話を頼みたいんだ」
「農場主さん、ミステリーサークルですか? あれは確か誰かのイタズラだったんじゃないですか?」
「何を言ってるんだ君は! これは明らかに超常現象じゃないかっ! UFOだって本当に存在するんだぞ!」
「ひっ! わ、分かりました。任せてください! 自分は動物は(まあまあ)好きですから」
「分かってくれればそれでいいさ。それで馬だの牛だの体力のいる家畜は僕が引き受ける。貴女にお願いしたいのはコイツらのエサやりなんだ」
「は、鳩…?」
「コイツらは全部レース用なんだ。どうだい簡単だろう? スコップでエサを撒くだけでいいから」
「む、…ッス…」
「え?何だって?」
「無理っス! じ、自分は鳩が怖いのでありやす!」
「兵隊さん…」
「びえーん!びえーん!」
「わかった、わかった。わかったからとっとと帰ってくれ!」
「と、鳥も悪い奴じゃない…クスン…」
○市民球場にて
「兵隊さんはお鍋のタレはポン酢派ですか? それともゴマダレ派? ちなみに私はポン酢とゴマダレをまぜる派なんですが」
「は? お鍋のタレですか…? えーどっちだろう…」
「はい。というわけで今日はウグイス嬢をお願いするわけですが、果たして大丈夫でありましょうか?」
「おーい、投げっぱなしかい! でも実はちょっと自信あったりします!」
「そうでしょう、そうでしょう。それではまず選手紹介を、元気よくお願いいたしますね」
「管理人さん、任せてください! 頑張ります!」
『コホン、え~選手の紹介をいたします。一番、セカンド、辻。二番、~~中略~~五番、指名打者、オレシテッテ、オレセテテ、オレテセレ・デットラッデ…』
「えええええっ!」
「か、滑舌悪いの生まれつき、ソロパートを削んなYO!」
「わたくしも新人の頃に『ラ行が弱いね』と指摘されたことがありますが…兵隊さん…」
「な、なんでしょう?」
「退場です! とっととお引き取りください」
「でーすーよーねー」