■#003│シュプレヒコール
さすがにエピソードはもうお腹いっぱいになっただろうから、そろそろ話を本題に戻そう。
ももたろう一行は遮有土の森を踏破中、幾度も鬼の襲撃を受けた。ももたろう一行の主力兵装は基本的に剣が中心であるが、今回遭遇している敵は弓矢で武装していた。
森の中ということで機動力を奪われている上に、相手はレンジ外から狙撃してくるため、少々苦戦を強いられていた。
だがそんなももたろうたちに思いもかけない援軍が現れた。そう、白光音峠守備隊の白ネコ班長とキジの女の子である。
ふたりは共に弓の名手で、鬼の部隊に後背から次々と、そして確実にダメージを与えていった。予期せぬ新手の出現に驚いた鬼たちは、その場から撤退していった。
「旅の人、怪我はなかったですかな?」
「どうもありがとう。あなた方に助けていただかなかったらどうなっていたか」
「いえいえ。ところで良く見るとあなた方は単なる隊商(キャラバン)ではなさそうですな。その武装…回答によっては見逃すわけにはまいりませんな」
語り口は穏やかだが、白ネコ班長の視線は鋭かった。彼の左目の上下にはひび割れのようなタトゥーがあり、それが威圧感を倍増させるのに一役買っていた。
ももたろうが返答に困っていると、閼伽凛皇女がその場に進み出た。
「仔細はわたくしから説明いたしましょう」
「あっ、ま、まさか…貴女様は閼伽凛様ではありませんか!? 自分は白光音峠守備隊のドルバッキーと申します」
「いかにも。わたくしは青き丘の国の第二皇女、閼伽凛です」
こうしてももたろう一行はついに白光音峠守備隊との合流を果たすことになった。
ほどなくして、ももたろう一行は白ネコ班長とキジの女の子の案内で、ようやく白光音峠にたどり着いた。しかし戦力補強をアテにしていた閼伽凛皇女の思惑は完全に外れてしまった。
「…そうでしたか。関所の守備隊がまだ機能しているのではないかと思ってやってきたのですが、残念です」
「残念ながら他の連中は サッサと逃げちまったのです。立場だなんだありゃそりゃそうするのではないかとは思いますがね…」
「でもお二人はここに残った。それで十分です。今日まで本当にご苦労さまでした」
「いえいえ、部下一名しかいないから、こっちゃ楽なもんです。おい杏果二等兵、閼伽凛様にご挨拶を」
キジの女の子は紹介されると元気に挨拶をした。
「ちっちゃいーけれどー元気でーありやーす!」
それにイヌの少女とももたろうが反応した。
「きゃあホントちっちゃーい!」
「かわいい! 華奢でうらやましいっ」
「ムカッ。チビだからってなめんな! 歌もダンスも誰にも負けないぜ!」
「こらっ、だから歌もダンスもお前の任務に関係ないだろっ? すみません、コイツはちょっぴりおバカな小さな巨人なんです。勘弁してやってください」
そんなこんなで、その晩は白光音峠守備隊の駐屯地でささやかに歓迎式典が催された。もちろんこの守備隊には十分な補給が無いことは一目瞭然ではあった。しかしそれなりに見える豪華な食事が用意された背景には、村人たちからのたくさんの差し入れがあったからに他ならない。
これは普段からいかに二人がこの地域の住民に愛されていたか、という証左であろう。
食事を終えると、ももたろうたちはお礼にキビダンスのパフォーマンスをすることになった。班長はともかく、キジの女の子はもともとダンスが大好きだから、あっという間にみんなのパフォーマンスに惹かれてしまい、気がつけば舞台に上がってきていた。
「そのダンス、自分も踊りたいでありやす! 自分にもステップ教えてくださいっ!」
そのあとは結局ダンスレッスンになってしまい、一同は夜遅くまでダンスの練習に没頭するのだった。
「杏果ちゃん、どう? 楽しくなった?」
「ホンマ最高! 自分は結構ダンスが得意だと思ってたけど、こんなに楽しい気分になったのは初めてかも? ちなみにこのダンスに名前はあるんですか?」
「これはね、わたしがおばあさんから教わった踊りで、キビキビとした動作を心がけることがポイントのダンスだから、略して『キビダンス』っていうの」
「キビダンス? へぇ、変な名前だけど、すごくイイです! 踊ってると本当に楽しくなってくるでありやーす!」
「ありがとう、そう言ってくれて。わたしも杏果ちゃんが気に入ってくれて嬉しいな」
「ところでお二人にお願いがあるのです。実はわたくしたちは鬼退治のため破魔待城に向かうところなのです。もしよろしければわたくしたち一行に加わっていただけないでしょうか?」
「鬼退治ですって? そりゃ宇宙弾丸列車を作るくらいの大仕事じゃないですか。ふーむ…まぁこのまま辺境の片隅で目立たない戦いをしているよりはいいかもしれませんね。おい杏果二等兵、貴官はどうするかね?」
「難しいことは掘り下げないとわっかんないですよ…でも皆さんが喜んでくれるなら、やるだけやってみますか」
「では決まりですな。閼伽凛様、白光音峠守備隊は只今をもって貴女様と行動を共にいたしましょう」
「無理を言ってすみません。ありがたく思います」
「よーし、仲間も増えたし、いっちょ景気良くいきますか。行くぞーシュプレヒコールッ!」
ももたろうが音頭をとると、その場の全員がこぶしを突き上げて唱和した。
『時代はいつでもグールグルっ!!!』
こうしてまた、ももたろうに新しい仲間が加わった。
― 第五楽章:労働参加率 完 ―
メモ
【続きの物語を読む】
第六楽章│PUSH on TITAN
野逸港に到達したももたろう一行は、ハンバーガーショプに立ち寄った。そこで出会った店員のはからいで、フードバトルチャンピオンシップという大喰いイベントを観戦することになった。しかし、イベント終了後に野逸港は大規模な鬼の襲撃を受けてしまった。
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【ひとつ前の物語を読む】
第四楽章│黒い終末
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【用語辞典を読む】
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【解説(テキストコメンタリー)を読む】
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終末ヒロイン伝『シン・ももたろう』
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