第七楽章│無尽の愛

■#003│新たな友

 旅立ちの朝――――。

「イタタ…腰が…」

「ももたろう、おはよう」

 ももたろうの前には、マスクを脱いで正体を露わにしたサルの若大将が立っていた。

「あ、詩織ちゃん、おはよう。よく眠れた?」

「あのサ、ももたろう聞いてくれる? オラ一晩考えたんだけど、オラも一緒についていってもいいかな? オラが本当にやりたかったのはちびっこハウスにお金を届けることなんかじゃなくって、子供たちに笑顔を届けることだったんだって、ももたろうたちのダンスを見て気がついたんだ。オラは子供のころ、いつもお腹を空かせていて、いつか腹いっぺぇ飯が食いてぇと思ってた。だからアイツらには同じような苦しみを味あわせたくないって思ってた。でもオメぇたちのダンスを見ている時のアイツらは本当に楽しそうな顔をしてたんだヨ…」

サル(サル)のイラスト

 サルの若大将からの意外な申し出に、ももたろうは驚いたものの嬉しくて飛び上がりそうになった。

「もちろんOKよ! 詩織ちゃんが一緒についてきてくれると言うなら、歓迎するわ、いえ大歓迎するわ!」

「ウン、ありがとうももたろう! ところでサ、昨日のダンスは本当にすごかったな。見ているこっちまでワクワクしてくる不思議な踊りだったゾ。ありゃなんていうダンスなんダ?」

「あれはね、わたしがおばあさんから教わった踊りで、キビキビとした動作を心がけることがポイントのダンスだから、略して『キビダンス』っていうの」

「キビダンス? ふーん、変な名前だけど、すごくイイな! 子供たちがとっても楽しそうでオラもうれしかったよ」

「ありがとう、そう言ってくれて。みんなが喜んでくれたならわたしも嬉しいな」

「オラにも踊れルかな?」

「モチロンだよ! 詩織ちゃん運動神経バッチリだからすぐに覚えられるよ!」

 意気投合するふたりのもとにちびっこハウスの院長とハンバーガーショップの店員さんがやってきた。

「ももたろうさん。詩織のこと、何卒よろしくお願いいたします」

「詩織、こっちの事は心配しないで。私も院長先生を手助けするから、あなたはももたろうさんと激レアな体験をいっぱいしてきてね」

「詩織、達者でな。無理はしちゃイカンぞ。体に気をつけてな…。仮に宇宙の果ての果てでも、詩織の事を想っているからね」

「ありがとう、お義父さん、アヤカ姉ちゃん。それじゃあ行ってきます…」

 こうしてまた、ももたろうに新しい仲間が加わった。だが話はここで終わらなかった。実はさらに合流を申し出てきた人物がいたのだ。そう、レフリーこと格闘家の丸田信朗(マルタノブロウ)である。

「ももたろう殿。貴殿が天下を目指すのならば、我ら丸田道場二百余名も貴殿の部下として働かせてもらえないだろうか?」

 ぶっちゃけ、今回の戦いは丸田道場の加勢があったから勝利したようなものである。それゆえに、丸田からの申し出を聞いた瞬間、閼伽凛皇女を始め、他のメンバーの顔が一斉にほころんだ。

 けれども、もたろうの回答は皆の予想を裏切る意外なものだった。

「丸田さん、せっかくのお話だけど、お断りすることにするわ」

「なんですと!? 我らは役立たずと仰るのか? ひょっとして、ボクのことキライですか? 声は届きませんか?」

 丸田としても、まさか断られるとは思ってなかったので、ももたろうのこの反応には驚きを隠せなかった。

「確かに私は天下を取りにいきたい…。沙羯羅竜王を倒して、青き丘の国を取り戻したいと思ってる…」

「ならば…」

「でもそれは“部下”と呼ばれる人たちにわたしの代わりに取って来て欲しいわけじゃないの。どんなに苦しくても、それが困難なことであったとしても、自分自身が、信じる仲間と共に、一緒に勝ち取りたいの。だからわたしには…部下なんてものはいらないの…」

「ふうむぅ…」

「だから…だからもし…仲間として、トモダチとして来てくれるなら…一緒に戦って欲しい、かな…」

「ハーッハッハッハッ! まさに漢が惚れるというヤツよの。それでは、我ら丸田道場二百余名は貴殿の友として同行させていただくことにしよう!」

「ありがとう、丸田さん。歓迎するわ。今後ともどうぞよろしくお願いします!!!」

 こうしてももたろう一行は新たな仲間を加えて、次なる目的地を目指し野逸の街を後にした。

― 第七楽章:無尽の愛 完 ―

メモ

【続きの物語を読む】

第八楽章│ORGANIC CHERRY

ももたろう一行は、鬼族から逆川城を奪取した新城主との対面を果たした。しかし彼我の戦力差が大きく、今は戦端を開くべきではないと知った。そこで休息を取るべく向かった先で、村の子供たちに虐められている一体のロボット少女と出会うことになる。

⇒ https://www.hajimetanizaki.com/secret/house-of-secrets/shin-momotaro/shin-momotaro-13/

【ひとつ前の物語を読む】
第四楽章│黒い終末
⇒ https://www.hajimetanizaki.com/secret/house-of-secrets/shin-momotaro/shin-momotaro-9/

【登場人物紹介を読む】
⇒ https://www.hajimetanizaki.com/secret/house-of-secrets/shin-momotaro/shin-momotaro-4/

【用語辞典を読む】
⇒ https://www.hajimetanizaki.com/secret/house-of-secrets/shin-momotaro/shin-momotaro-5/

【解説(テキストコメンタリー)を読む】
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【コンテンツの一覧を見る】
終末ヒロイン伝『シン・ももたろう』
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