■#002│ロボットの少女
サルの若大将がお腹が空いたというので、一行は食事をとりに城の外に出てきた。
校長によると、城の近くには『逆川フルーツパーク時之栖(サカガワフルーツパークトキノスミカ)』という農園があって、そこではさくらんぼ狩りができるのだそうだ。
そこで、それじゃあさっそくそこへ行ってみようってことになり、一行はまるで旅行者のようにきょろきょろしながら移動を開始した。
その道中、ももたろうたちは村の子供たちに虐められている一体のロボット少女と出会った。
「おいこら、このダンボールお化け!ついてくんなよ!」
「ダンボールじゃないよ。あーりんダリウム合金だよ。水に濡れても平気だよ?」
「嘘つけ!背中に紙コップつけてるくせに!」
「紙コップじゃないよ。これは高機動型バーニアだもん。それよりあーりんも仲間に入れて❤」
「うるせーな!お前をシックな装いにしてやるよ!これでも喰らえ!」
「あーりんも一緒にズクダンズン…ブッ」
子供が投げた泥団子がロボット少女の顔面にヒットした。その拍子でロボット少女は思わずぺたんと地面に座り込んでしまった。恐らく実際にダメージがあったというよりは、びっくりしてしまった、というところだろう。
そのシーンを目撃し、ももたろうが声を上げて駆け寄った。
「こらー!弱い者いじめしちゃだめじゃないかー!!」
その剣幕に驚いて、子供らは蜘蛛の子を散らすように退散した。
「ヤベェ、逃げろ!」
座り込んだロボット少女はきょとんとした顔で、逃げていく子供たちを見つめていた。鼻先とほっぺたに泥をつけたままで。その姿はまるで大天使そのものであった。
「大丈夫?怪我はなかった?」
「まぁひどい。顔が泥だらけだわ。これで拭いて」
閼伽凛皇女が差し出したハンカチを受け取ると、ロボット少女は奇妙な歌を歌いながら顔の泥をぬぐった。
「お肌のお手入れ、きゅきゅっきゅきゅー!あーりんのほっぺは?」
「は?」
「あーりんのほっぺは~?」
急に振られてももたろうは固まった。しかしどうにか「へ?あ、えと、ぷにっぷに…?」と返すことができた。
ロボット少女は不満げな表情を浮かべると「ぷにっぷにー?ぴちっぴちでしょ?ぴちっぴち!」と続けた。
ももたろうもようやく要領を把握し、「ぴちっぴちー!」と反応した。
「こんにちは。あーりんロボだよぉ❤」
ロボット少女が両腕を広げて挨拶した。
「こ、こんにちは」
「あーりんロボはぁ、逆川フルーツパーク時之栖で働いているの! 今から案内してあげるね☆」
ロボット少女の「圧」に気圧されたのか、一同の反応はイマイチだった。
「なんかペースがつかめねぇナ!」
「でも、なぜ我々の目的地が分かったのでありやすか?」
「さあ? とにかく彼女について行きましょう」
◆ ◆ ◆
「まさか閼伽凛皇女様にお出ましいただけるとは大変光栄です!この農園では主にさくらんぼを栽培しております。現在は七種類ほどの品種がありますが、どれも完全無農薬を実現しているんですよ」
「うわぁ、どれも美味しそう。いただきまーす!」
まだ農園主(ノウエンシュ)の挨拶も終わらぬうちに、イヌの少女がさくらんぼに手を伸ばした。
「佐藤錦、南陽、ナポレオン…ここは、天国?」
サルの若大将もあれこれと手を伸ばし、恍惚の表情を浮かべている。
「ところで農園主さん、ここで働いているロボットの女の子のことなんですけれど…」
「あーりんロボがどうかしましたか?ひょっとして何か悪さでも…?」
「いえ、そうではないのです。ここへ来る途中、子供たちに虐められていたようだったので」
「ああ、そうでしたか。あの子のA&Rは僕が担当しているんですが、ちょっと個性(キャラ)が強すぎてみんなから浮いてしまっておりまして…」
「あら、わたくしたちもかなり個性的なメンバーが揃っていますから、その中に入ると案外普通に見えるかもしれませんわね」
「個性的でもさー、もったいないってことあるよね?」
「そうだよ。磨いていかなきゃ錆びていくんだよ!」
「ハハ、そうかもしれません。あのロボットは近くに住む米村博士という人に製作をお願いしたのですが、感情表現の部分でまだまだ調整が必要みたいで…」
「えっ?米村博士って、ひょっとしてでんじろう先生?」
「え?いや、下の名前は確か…ヒロミツとかだったような…」
「なーんだ、残念」
「やはり現在の技術では、喜怒哀楽など心の動きを表現するのは難しいのだそうです。もっとも我々は労働力が欲しいだけなので、ロボットに感情表現を求めてはいませんが、やはり子供たちが気味悪がってしまって…」
「そっか。オラも『竜の穴(ドラゴンピット)』では感情を抑える訓練を随分とやらされたけど、もともと感情が無いってのもかわいそうな気がするナ…」
すると、そこへ農園主の妻(ノウエンシュノツマ)が血相を変えて飛び込んできた!
「あなた、大変だわ。どうしましょう!」
「おいミオコ、落ち着きなさい。お客様がお見えなんだから」
「ごめんなさい。でも、子供たちがまだ帰ってこないのよ」
「なんだって?もうこんな時間だというのに…」
「それは心配ね。わたしたちも一緒に探します」
「ありがとうございます!どうぞよろしくお願いいたします」
こうして農場の子供たちの捜索が開始された。その道すがら――――。
「お肌のお手入れ、きゅきゅっきゅきゅー!」
「うーん。君はまったく緊張感が無いね…」
「君じゃないよ、あーりんロボだよぉ❤」
「いやそれは知ってるから!」
「ねえ、あーりんロボ。あなた今日子供たちに虐められていたわよね?怒ってはいないのかしら?」
「あーりんロボの心はひろ~りんだから許してあげる。ところでみんなでどこに行くの?」
「さっき説明したじゃん。今すごくピンチなんだよ」
「ピンク?」
「ピ・ン・チ! 農園の子供たちがいなくなってしまったから、探しているでありやす」
「ふーん。あーりんロボは何でも解決しちゃうから、そんな時はあーりんロボにおまかせあれ!」
「じゃあ、農園の子供たちを見つけるにはどうすればいいの?」
「そうね、ど~したら~農園の子供たちを見つけることができるの~?う~~~ん…はっ!」
「なに?」
「わかったわ!みんなで探せばいいのよ!」
「これで解決したみたいなんで、あーりんロボはこの辺で。バイバイあ~りん❤」
「そんなわけあるかー!!!」
その場にいた全員がツッコんだことは言うまでもない。