第九楽章│へそで踊る歌

■002│手代木公園(テシロパーク)

 破魔待城攻略の糸口がつかめないまま、数日が過ぎてしまったある日のこと。ももたろう一行は気分転換のために逆川の城下町にある『手代木公園(テシロパーク)』という所で休日を堪能することにした。

「わー!クレープ屋さんがある!ねえねえももたろう、クレープおごっテー?」

「ちょっと詩織!アンタさっきもカレー三杯食べたじゃん。公園に着いたら直行カレー三人前とかおかしくない?」

「おかしくない、おかしくない!一杯より三杯の方が美味しいじゃン!」

「そう言う問題?」

「そういう問題」

「自分の財布は?」

「スッカラカーン!」

「ま、いつものことだから慣れたけど。でもわたしもおごるほどお金ないよ!」

「ええーっケチぃ。しかたない“アレ”をやるしかないか…」

 ももたろうがおごってくれないと分かると、サルの若大将はおもむろに目を閉じて、両腕を天に向かって突き上げた。

 そして気合いを入れて集中すると、なにやら大きな声で叫び始めた。

「みんなー、オラにちょっとだけ現金をわけてくれー!頼むー!」

◆   ◆   ◆

「ぷはぁー、喰った喰った。さすがにクレープ全種類制覇はやり過ぎだったかナ?」

 満足げなサルの若大将の様子を見て、キジの女の子が疑問をぶつけた。

「ねえ詩織。あんた今朝はあんましお金持ってないみたいなこと言ってたけど、なんかさっき空中から小銭がいっぱい出てきてたじゃない。アレなに?」

「ああ“現金玉”のこと?まあATMみたいなモンかな。こんどやり方教えてあげるヨ!」

 別のテーブルではイヌの少女とももたろうが興奮気味に話をしていた。

「ねえねえ、このパンフレット見てよ!この公園ってアトラクション盛り沢山だね!」

「本当だ!なになに『なんこうぶしフォークソングの夕べ』『長崎クローバー大使任命式典』『奉納・福祉大相撲大会』『男川さいがいFM公開収録』『文化庁メディア芸術祭 ドルトムント展』『ハッピーオンステージ 戦え!ももいろアニマルZショー』だって。他にも色々あるみたいだねっ!」

「あ、プリクラあるよ。みんなで撮ろうよ!」

「あーりんロボはプリクラパス」

「なんで?いいじゃん!」

「ママがダメだって…」

「あんたママなんていたっけ?設定がブレブレじゃん!」

「まあまあ。それよりこの『占いの館』に行ってみませんこと?すごく良く当たるらしいわよ」

「わぁ!占いしたーい!」

 ということで一行はみんなで占いの館に行くことになった。

 エンジ色のカーテンをくぐると机があって、水晶玉を前にした占い師が座っている。よく見るとその占い師には眉毛が無かった。

占い師(ウラナイシ)のイラスト

「いきなりですみませんけど、眉毛どうしたんですか?」

「ああこれ?昨日の夜に眉毛を染めていたんだけれど、ついうっかりそのまま寝てしまったのよ。ってそんなことはおいといて、ようこそ『占いの館』へ。それで、本日はどんなことを占って欲しいのかしら?」

「ええーどうしよう?そういえば何も考えてなかったよー。やっぱりここは定番の恋愛運?うひょ!」

「ちょっとももたろう、そんなことよりわたくしたちの目的がかなえられるかどうかでしょ!?」

「ちぇぇ!でもそれもそうね。それじゃあ占い師さん。わたしたち目標にしていることがあるんですけど、それが達成されるかどうか占ってもらえますか?」

「いいでしょう。それじゃあこの用紙に生年月日と、名前をフルネームで書いてください。後はその発券機で番号を取って順番に呼ばれるまであちらの控室でお待ちください」

「え、なんか想像以上に事務的なんですけど…正直いま気を失いかけた」

「この占い師大丈夫なのかな?」

「何ですか?私の占いに文句でも?なんか気分悪いわ。ポヤポヤするから帰っていいですか?」

「ポヤポヤの意味が解らないでありやす…」

「まあまあ。待ちますから、よろしくお願いいたします。さ、みんな行きますわよ」

 一行が控室に移動すると、先ほどの部屋からなにやらキーボードで入力している音がした。そしてしばらくするとプリンターの動く音が…。

「はい、番号札十三番の方。結果が出ましたのでこちらへどうぞ」

 先ほどの部屋に通されたももたろうに、占い師が一枚の紙を差し出した。そして上から順番に紙に書かれていることを読み上げ始めた。

「ちょっと待ってよ。そこに書かれていることを単に読み上げてるだけじゃん!」

「そもそも本当にちゃんと占ってくれてんのぉ?」

「っつーかさっきネットで調べてたんじゃないの?このポンコツ占い師!」

 その場にいた全員がツッコミどころ満載と言わんばかりに騒ぎ始めた。すると占い師は委縮するどころかキレ気味になって一行に喰ってかかった。

「はぁ?あんたら私の事バカにしてんの?私はね、こう見えてもかつては『眠りの巫女(ネムリノミコ)』と呼ばれてた一流の呪術者なんだよ!王様からお呼ばれして破魔待城に行ったことだってあるんだからね!まぁその時は王様の誕生日の入力を間違えて、色々やらかしちゃったけど、本当だったらあんたたちのような貧乏人を相手にするようなマネしないんだからねっ!」

 ももたろうには『眠りの巫女』という名前に聞き覚えがあった。もちろん閼伽凛皇女にもである。

「ええっ!じゃあ国の名前を変えろって言ったのはあなたなの!?」

「生まれたばかりの赤ん坊を川に流せって言ったもあなたですのね!?」

 予想外の反応に占い師は動揺した。

「な、なぜその事を…も、もう私逃げます!今までありがとうございましたっ!」

 眉の無い占い師は捨て台詞を吐くと、猛ダッシュで逃げて行ってしまった。どうやら単なるうっかりミスが、国を揺るがすようなおおごとになってしまったというのが真相らしい。

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