■#003│緊急事態
手代木公園で休日を満喫したももたろう一行は、思いもかけない緊急事態に陥っていた。
夕暮れ時になり、辺りが暗くなりはじめたころ、公園で遊んでいた入場者達はようやくその異常事態に気がついた。
その時すでに手代木公園の周囲は、般若の面をつけた数千人の武装集団に包囲されていた。彼らは沙羯羅竜王配下の野戦専用部隊で、その名を『般若隊(ハンニャタイ)』といった。
般若隊首領の合図に呼応して、手代木公園の東西南北にある4つの門から、般若隊の戦闘員の突入が開始された。
突然の出来ごとに公園内はパニックに陥った!
ももたろうたちはとりあえず公園中央にあるステージにたてこもり、様子を見ることにした。
「マズった!完全に油断したわ。まさかこのタイミングで襲撃されるとは」
「確かにちょっと浮かれすぎてしまいましたわね。どうするももたろう?」
「とにかく包囲を突破して逆川城まで戻らないとなんだけど…さすがに無理っぽいかな?」
「こちらはわずかに六名。それに対して敵はおよそ五千人。普通に考えたら突破は相当困難でありやす。このように彼我戦力差が大きい時は、敵の中枢のみに戦力を集中投入するか、敵を分断しての各個撃破が常套手段ですけど…。ちなみに彼我戦力差っていうのは、相手と自分との戦力を比べてどのくらい差があるかってことを正しく認識しましょうってことなんだけど、そうだ認識っていえばね、私がまだ高校生の頃にね…」
「ねえ、杏果。その話後でもいい?」
「え?…う…うん…」
キジの女の子の話が明後日の方向に発展しそうだったため、ももたろうは話を遮った。
「フン!こんなん困難なんて言えないヨ。オラが筋斗雲で逆川城まで飛んで行って、援軍を要請してこようか?」
「残念ながら援軍が到着した頃には、我々はすでにこの世には居ないでしょうね」
「確かに。ねえ杏果さっきの『敵の中枢に戦力を集中投入』っていうのはどういう意味かしら?」
「はい、この場合は敵の大将をまっさきに叩いて指揮系統を混乱させるってことでありやす」
「要するにまずは一騎討ちに持ち込んで、そんでもって勝つ!ってことね。なんて言うかヒラリン、スラリン、ニヤリン、逆転Winner!って感じ?」
「言うのは簡単ですけれど、うまくいくかしら…ってこらぁあーりんロボ!おとなしいと思ったらあなたいつまでシュークリーム食べてるの?」
「ふえ?」
「シュークリームは一日一個って言ったでしょ?」
「ふぇ~ん、あかりんの意地悪ぅ~。ママみたいなこと言わないで!」
「だから、あんたにはママなんていない設定でしょ!?」
「緊張感無いなぁー。まあそのくらいの方が逆に頼もしいけど。それじゃあそろそろ行きますか」
ももたろうは腰を上げ、ステージの袖から外に向かって堂々とした様子で歩き始めた。
◆ ◆ ◆
「…ということで、一騎打ちしてあげるわ、般若のお面さん」
「ええと、ちょっと確認したいんだけど、お前バカなの?」
「はあ?こんなにカワイイわたしたちを前にして何言ってんの?あんたってホント、女の扱い方ってモンが分かってないわね!」
「仕方ありませんね、首領は童貞ですから…」
「童貞じゃねーし!!!」
「と・に・か・く、こんなに狭いところで五千人が右往左往したって効率が悪いでしょっ?だから一騎打ちしてあげるって言ってんの!」
「無茶苦茶な理屈ですな。このまま一気に捕縛しますか?」
「それでも良いんだけど、このままだとなんか馬鹿にされたまま終わる気がしてならない。一応形の上でだけでもヤツらの提案に乗ってみよう」
「どーすんのよー!?」
「わかった。一騎打ちに応じよう。それで、決闘の方法は?」
「え?方法っ?どーしよう。何も考えてなかった…」
「ちょっと大丈夫なの?そんなんで」
「要は勝ちゃいいんだから、種目はあっちに一任したら?」
「それもそうね。それじゃあ般若のお面さん。決闘の方法はあなたに任せるわ」
先ほどからの意外な展開に、般若隊首領も戸惑いを隠せなかった。
「えっお任せなのっ?どうしよう?そうだなー、うーん、あつ、それじゃあ『あのゲーム』で勝負しよう!」
「あのゲーム?」
「分かるっしょ?あのゲームだよ、あのゲーム!あの国民的ゲームだよ!!」
「…あのゲームって…?」
察しの悪いももたろうを前にして、ついに般若隊首領がキレ気味にツッコんだ。
「え、マジ分かんねえの?ほら『ズクダンズンブングンゲーム』だよっ!」
「えーつ、何それーっ!?」
ももたろう一行が戸惑いの表情を浮かべると、般若隊首領は逆に嬉々としてはしゃぎ始めた。
「えっ知らないの?『ズクダンズンブングンゲーム』だよ?オレ初めて見た~『ズクダンズンブングンゲーム』知らない人~www」
「えーっ?ねえみんな、知ってる?」
「全然知らない…。聞いたこともないけど」
「ど、どうしよう…このままじゃ負けちゃうわ!」
ももたろうは軽々しく般若隊首領に決闘の方法を委ねてしまったことを今更ながらに後悔した。かつて剣の師匠である内山田からは「生殺与奪の権を他人に握らせるな!」と繰り返し言われていたはずであったのに…。
だが、その状況も意外な人物の一言で一変する。
「わたし知ってるよ。『ズクダンズンブングンゲーム』でしょ?」
「えええええっ!あーりんロボマジで!?」
「わたし結構強いから、なんとかなるっしょ!」
こうしてももたろう一行の命運を賭けた決闘が始まった。
― 第九楽章:へそで踊る歌 完 ―
メモ
【続きの物語を読む】
第拾楽章│歌う、歌う。
あーりんロボの活躍により般若面の男を倒すことに成功したももたろうたちは、忠誠を約束した般若隊を従えて逆川城に帰還した。帰還したももたろうは、早速破魔待城攻略の戦術案を披露するのだが、逆川城主に机上の空論だと却下されてしまうのだった。
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【ひとつ前の物語を読む】
第八楽章│ORGANIC CHERRY
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【登場人物紹介を読む】
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【用語辞典を読む】
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【解説(テキストコメンタリー)を読む】
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終末ヒロイン伝『シン・ももたろう』
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