■プロローグ│Carmina Burana da Z
数メートルおきに設置された松明の炎が、大広間を照らしていた。大広間の壁や床は、すべて大理石で覆われている。部屋の主はきっと大金持ちか、あるいはとても高貴な人物なのだろう。
大広間の北側は数段高くなっており、中央には大きな玉座が設置されている。奥の壁には、両側に四つ葉の“カタバミ”をモチーフにした軍旗が飾られていた。
玉座には恰幅のよい男性が、悠然と腰をおろしている。しかし、その態度とは裏腹に、その男の瞳は複雑な色をたたえているように見受けられた。実は、その大広間は、もう幾日にもわたって重苦しい雰囲気に包まれていたのだった。
大広間の中央には、玉座からまっすぐ南に向かって紅いカーペットが伸びている。そして、カーペットの中ほどには、青いドレスを身にまとった美しい少女が立っていた。どうやら、青いドレスの少女に向かって、先ほどから玉座の主が語りかけているところだったらしい。
少女の表情からは何も読み取れない。しかし、それでも両の瞳に宿った意志の強さだけは、かろうじて垣間見ることができた。
「姫よ…」
「はい」
「よいな、かならず“かの者”を連れ戻し、この世にふたたび色を取り戻さねばならん…」
「御意」
「そなたが帰還した折に…、もしも、もしも時すでに遅く、この玉座が闇の者たちの手に落ちていたならば…、その時は予に代わってそなたがその闇を払うのだ」
「…は、はい…」
「では姫よ。こちらへ参れ。玉座の仕掛けを授けよう…」
少女が近寄ると、玉座の主は何事かを彼女に告げ、なにやら呪文めいた文字の書かれた紙片を手渡した。少女は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに元の無表情へと戻っていった。
「それでは父上。わたくしは行って参ります。わたくしが戻るまで、どうかご壮健で」
「うむ。往くがよい。我が姫よ」
少女はきびすを返すと、外へ通じる大きな扉の前へ向かった。扉が開くと、そこには十名ほどの騎士たちが待機していた。少女は臆することもなくその中央へ歩みを進めると、騎士の一群は二手に分かれて少女のために道を空けた。
こうして青いドレスの少女は彼らを手勢として引き連れ、堂々とした様子で退出していった。
そしてこれが、色を奪われようとしている世界の、ものがたりのはじまり――――。
メモ
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第壱楽章│天手力女
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終末ヒロイン伝『シン・ももたろう』
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【解説(テキストコメンタリー)を読む】
プロローグ│Carmina Burana da Z
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