第参楽章│ドレッドノート

第参楽章の表紙

■#001│超弩級の驚き

「ももたろう。まだあきらめちゃいけないよ。村は破壊されてしまったが、じいさんたちの遺体が見つかったわけじゃない。これはおとぎ話なんだから、誰も死んだりしないんだよ」

 泣きじゃくるももたろうを見かねて内山田が声をかけた。しかしももたろうにもそれが単なる気休めでしかないことは分かっている。壊滅した星屑村を見て、ももたろうはただただ後悔の涙を流すことしか出来なかった。

 やむなく、一行はももたろうを炭焼き小屋まで連れて帰った。そして全員で食卓を囲むと、内山田が今まで隠していた真実を語り始めた。

「ももたろう、よくお聞き。閼伽凛様も一緒に聞いてください。確かに俺は、かつてヒャ=ダイン・サントハイムと名乗っていて、富国有徳王に仕えていたんだ…。さて、どこから話せば良いかなぁ…長い話になるがまぁ聞いてくれ。まず二十年ほど前に鬼族が魔界から攻めてきたところから話そうか」

 内山田の口から語られたのは、およそ以下のような内容だった。

○青き丘の国に鬼族が侵攻してきてから五年ほどが経ち、戦況は徐々に悪化していた。これを打破するために、富国有徳王は『眠りの巫女』を城に呼び寄せた。

○眠りの巫女の一族は、古来より超自然的存在と直接交信する役割を担う、いわば呪術者のような役職である。

○眠りの巫女が出したお告げはふたつ。ひとつは国の名前を改めること。

○もともと青き丘の国は『静かなる丘の国』と呼ばれていた。しかし国名に『争』の字があることの縁起が悪いと告げられ、そこからは『青き丘の国』と表記するようになった。

○そしてもうひとつは、生まれたばかりの双子の姫君のうち、どちらかを東国の川に流して捨ててしまうことであった。

そこまで話したところで、ももたろうと閼伽凛皇女はその意味に気がついてハッとなった。今まで生きてきた人生の中で、これほどまでに“超弩級”の驚きに遭遇したことがあっただろうか?

「内山田殿、その双子というのはまさか…?」

「そのまさかですよ、閼伽凛様。王国にはその時、双子の姫が誕生していたんです。妹のアカリ。そして姉のカナコ……。…そう、君のことだよ、ももたろう…」

 ふたりは絶句してしまい、もはや思考回路はショート寸前。今すぐ会いたいよ。いや、ギリギリの時きっとわかる。

 十四年前、内山田が富国有徳王に命じられた指令というのはほかでもない。双子の姉の方を東国のどこかの川に流して捨てることであった。そしてその子が無事に成長する姿を見届けることだったのである。

 だから内山田は星屑村の近くに住まいを構え、今日までももたろうの成長をそれとなく見守ってきたのだ。

(こんなに美人で聡明な姫君が、わたしの妹…?)

(こんなに強くて優しい方が、わたくしの姉様…?)

 ふたりがお互いに「他人とは思えない」と感じていたのも、当然のことと言えよう。

 それから内山田は神棚に祀ってあった小さな桐の箱を取ってきて、ももたろうに差し出した。

「ももたろう。これはね、俺が富国有徳王から預かった『電弧放電式光剣(ライトセーバー)』だよ。『鬼斬丸(オニキリマル)』という銘がついている。父君からこれをいつかカナコ姫に渡して欲しいと頼まれていたんだ」

鬼斬丸(オニキリマル)のイラスト

 その日から、『打倒、沙羯羅竜王』を目指して、ももたろうの剣の修業が始まった。

 富国有徳王も剣の達人だったらしい。ももたろうも父王のようにモノノフの騎士になる事を誓って、剣の道を志すことになった。そして修行を終えたら、青き丘の国へ行くのだと決意した。

 内山田の修業は苛烈を究めた。握力が無くなるまで刀の素振りをさせられるなどはほんの序の口。終日滝に打たれることもあった。ある時は、かかれば命を落としかねない程の強力な罠が張り巡らされた山からの下山。トイレに行きたいと伝えると「汗で出せ!」と言われてしまう有様。挙句の果てには、ももたろうの背丈よりも大きな岩を日本刀で切断せよとの無理難題…。

 しかしももたろうも歯を食いしばって試練に耐えた。そしてついにモノノフの騎士たちに伝わる特別な呼吸法と「型」の習得を済ませると、あの大岩を日本刀で切断することに成功するのだった。

「半年経ってやっと男の顔になったな」

(わ、わたし女の子なんですけどぉ)

 その後、ももたろうはモノノフの騎士の称号を得るための最終選別に向かい、見事に合格を果たした。気が付けば内山田と出会ってから2年もの月日が流れようとしていた――――。

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