■#002│キビダンス
あれから2年――――。
内山田の厳しい修業のおかげもあって、ももたろうはいっぱしの剣士に成長していた。やがて鬼退治に向かう日がやってきた。
ももたろうと閼伽凛皇女は旅支度を済ませると、ふたりで青き丘の国を目指して出発した。ちなみに内山田は別行動をとることになった。彼は一縷の望みをかけて、村人の捜索に出ることになったのだ。
「それじゃぁ師匠、行ってまいりますッ!」
「ああ、行っておいで。旅の途中でなるべく多くの仲間を集めるんだよ。桃魂(ピーチソウル)と共にあらんことを!」
◆ ◆ ◆
ももたろうと閼伽凛皇女は西へ西へと旅を続け、青き丘の国を目指した。意気揚々と出発した二人だったが、次第に心細くなり始めていた。
特に閼伽凛皇女にはこれといった戦闘スキルがあるわけではない。本当に国を奪った沙羯羅竜王を倒して民を開放できるのだろうかということを悩んでいた。
閼伽凛皇女が文字通り夜も眠れない数日を過ごしたある日の夜。泊まった旅館の部屋でももたろうが閼伽凛皇女を元気づけるために得意なダンスを披露した。
それはかなり激しい踊りではあるが、特筆すべきはその珍妙さだ。例えば股を開いて片足をあげたりするような、ちょっと年頃の女の子が踊るには抵抗があるというか、あけっぴろげというか、おおらかというか、奇抜すぎるというか…まあそういう種類の踊りであった。
だが実はこの踊りの正体は、ももたろうがおばあさんから教えてもらった一子相伝の不思議な踊りだったのだ。その踊りを見た者のHPをマックスまで回復してしまう、いわば『仙豆』のような効能を持っていたのだ。
閼伽凛皇女も最初こそ面喰っていたが、次第にその魅力にハマってしまって、最後にはももたろうと一緒に踊りだしてしまった。
「閼伽凛様!どう?楽しかった?」
「ええ、とっても!こんなに楽しい気分になったのは本当に久しぶりだわ。王宮にも踊り手はたくさんいたけれど、こんなに楽しいダンスを踊ってくれた人は誰一人いなかったわ!ところでこのダンスに何か名前はあるのかしら?」
「これはね、わたしがおばあさんから教わった踊りで、キビキビとした動作を心がけることがポイントのダンスだから、略して『キビダンス』って呼んでるの」
「キビダンス?面白い名前ね。でもこの踊りを見たらきっとみんな喜ぶわ」
「ありがとう。でもわたしは閼伽凛様が元気になってくれたらそれで十分嬉しいな」
「…心配をかけてしまったみたいね。…ごめんなさい」
「ううん。いいの。…そ、それよりね、もし良かったら…わ、わ、わ、わたしのこと…『お姉ちゃん』って、呼んでもいいのよ?」
「えっ…なっ、な、な、な、なーに言ってんだか! あんたなんか、あんたなんか『でこっぱち』で十分よッ!」
「なっ!なんですって!?げじまゆげのくせにッ!げーじげーじげじげじまゆげ!」
「はーちはちはちでこっぱち!」
「まーゆまゆまゆまーゆーげ!」
「ももたろうはでこっぱち!」
「あーむかつく!」
「あーむかつく!」
「まねすんなー!」
「まねすんなー!」
「ホントただの幼稚園児じゃん!」
「こないだ十六歳になりました~!」
とまぁ、そんなこんなで夜も更けてゆく。なんとも微笑ましいことである。