第参楽章│ドレッドノート

■#004│於島神社とイヌの少女

 相州於の島にたどりついたふたりは、まず旅の無事を祈るため於島神社(オノシマジンジャ)という神社を参った。ついでにそこで他の参拝客に『紫電の魔女』について聞き込み調査をする腹づもりでもあったのだ。

 ふたりの目の前にはなにやら熱心に拝んでいるイヌの女の子がいたので、早速声をかけることにした。

「こんにちはー。 あのね、ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど、聞いてもいい?」

「オッケーだワン。何が聞きたいんだワン?」

◆イヌ(イヌ)の少女のイラスト

「わたくしたち『紫電の魔女』という人を探しているの。このあたりに住んでいるって聞いてきたんだけど、何かご存じないかしら?」

 それまでとても人懐っこい笑顔だったイヌの女の子は、『紫電の魔女』というワードを聞いて急に警戒モードになった。

「お前たち、何者だワン。紫電の魔女にどんな用件なんだワン?」

「わたしは星屑村のももたろう、こっちは妹のあかりん。実はわたしたち、鬼退治のために旅をして…」

「ちょ、ちょっと待つだワン。星屑村のももたろうって、あのお尋ね者の?」

「お尋ね者ですって!?」

「えー?いったいどういうことなの?」

「なんだお前たち、自分たちの首に賞金がかけられているのを知らないワンか?」

 イヌの女の子はそういうと、ふたりを境内にある掲示板まで案内した。そこには確かに「WANTED」と書かれた2枚の貼り紙があった。

「えー、何これー。あかりんはちゃんとした写真なのに、どうしてわたしだけこんな下手くそな絵なのよう!」

 そこに描かれていたももたろうの似顔絵は、思わず吹き出してしまう程に微妙なイラストだった。

手配書のイラスト

「フフフ、ももたろうのこの似顔絵ったら…っフフ。まあこのわたくしはホラ、有名人っていうの? 王宮へ行けば小さい頃からの写真なんてたっぷりあるし。そこへいくとももたろうはポッと出というか、写真とか出回るような生い立ちじゃないし。ほーっほっほっ」

「ムキーッ! 悔しい!悔しい!悔しいよー!」

「おい、お前ら全然緊張感がないワン」

「そんなこといったって、わたしたち何も悪いことなんてしてないし…」

「でもまあ、鬼から逃げていることは事実だけど。きっとヤツら、わたしくたちを探し出すためにこんなことを…」

「まあせいぜい頑張るんだワン。役にはたってあげられないけど、逆にあたしが捕まえたことにして、一緒に鬼のところに出頭してくれるなら、それはそれで助かるワンw」

「あのさ、ちょっと思ったこと言ってもいい? 無理やり語尾に『ワン』をつけなくてもいいと思うよ?」

「ええ、わたくしもそう思いますわ」

「あはは、やっぱり? 一応キャラを立たせるためにそうしてたんだけど、無い方が全然話しやすいわ、実際。実はさ、去年のクリスマス会でトナカイの役をやったんけど、その時も語尾に『~シカ』って。その時からやっぱちょっと無理があるなーって思ってたんだぁ」

 一呼吸おいて全員で大爆笑した。このイヌの女の子も決して悪い子ではなさそうだ。

「ねぇ、ところでお馬さん、あなたのお名前はなんていうの?」

「うんそうね、パッカパッカ、ヒヒーン! って誰が馬じゃゴルアッ!」

「こ、これが巷でうわさの『ノリツッコミ』ですわね?わたくし初めて実物を見ましたわ!」

「どっからどうみてもイヌでしょ!? イヌ!」

「ごめんなさい。でも絶対やってくれると信じてた」

「期待を裏切らないオンナ、それがあたし。ついでにいうと私の名前は『れに』よ、『れに』」

「れにさんね。それはそうと、先ほどは随分と熱心に拝んでいらしたわね。何をお願いしていらしたの?」

「ああ、それはね、『弁財天女様、どうか明日からのステージが成功しますように、力を貸してください』ってね。実はあたし明日と明後日にこの近くのムニエル・クッキング苑っていう植物園でマジックショーをするの。だからその成功祈願ってわけ」

「れにちゃんスゴーイ! マジシャンなんだ!」

「そうよ。今回はまさかのツーデイズ。この天才マジシャンであるあたしがみんなをドッカンドッカン沸かせてみせるわ。そうだ、あなたたちにもチケットあげる。もしよかったら見に来てね」

 こうしてイヌの女の子とはそこで別れ、今晩はこの街に泊まることにした。

― 第参楽章:ドレッドノート 完 ―

メモ

【続きの物語を読む】
第四楽章│黒い終末
於島神社で出会ったイヌの少女のマジックショーを見学に来たももたろうと閼伽凛皇女。ふたりはマジックショーを楽しんでいたが、『幽体離脱』という究極の脱出マジックの最中に事件は起きた。二人の身に何が?そしてイヌの少女の脱出は成功するのか?

⇒ https://www.hajimetanizaki.com/secret/house-of-secrets/shin-momotaro/shin-momotaro-9/

【ひとつ前の物語を読む】
第弐楽章│火葬ディストピア│終末ヒロイン伝『シン・ももたろう』
⇒ https://www.hajimetanizaki.com/secret/house-of-secrets/shin-momotaro/shin-momotaro-7/

【登場人物紹介を読む】
⇒ https://www.hajimetanizaki.com/secret/house-of-secrets/shin-momotaro/shin-momotaro-4/

【用語辞典を読む】
⇒ https://www.hajimetanizaki.com/secret/house-of-secrets/shin-momotaro/shin-momotaro-5/

【解説(テキストコメンタリー)を読む】
⇒ https://www.hajimetanizaki.com/secret/house-of-secrets/shin-momotaro/shin-momotaro-6/

【コンテンツの一覧を見る】
終末ヒロイン伝『シン・ももたろう』
⇒ https://www.hajimetanizaki.com/secret/house-of-secrets/shin-momotaro/

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