■#001│感電少女のマジックショー
ムニエル・クッキング苑というのは、もともと地元の貿易商が造成した和洋折衷の庭園跡である。現在は自治体が買い取り、植物園として運営されており、周囲の住民にとって憩いの場所となっていた。
ももたろうたちがその植物園に行ってみると、奥の広場に大きなテントが張られているのがうかがえた。そしてテントの入り口には「感電少女・大マジックショー」と書かれた看板が立っていた。
昨日イヌの少女から受けっとったチケットで認証を受ける。テントの中に入ってみると、ざっと百人ほどが入れる座席が並べられていた。
ラッキーなことに、ももたろうたちは比較的ステージの正面に近い最前列に座ることができた。
開演――――。
派手なサウンドとともに照明が点滅した。焚かれたスモークの中から、昨日のイヌの少女がシルクハットをかぶって登場した。
どうやら地元ではちょっとした有名人のようだ。彼女が登場しただけで会場がどっと沸く。中にはサイリュウムを持って応援している観客さえかなりの数が見受けられた。
それを見て、ももたろうと閼伽凛皇女もちょっとした興奮を覚えたのだった。
「会場の皆さーん。おはようございまーす!」
「おはようございまーす!」
「それじゃあ今日もユカイにいっちゃうよ。感電少女のマジックショー、スタート!」
暗転したのち、“オリーブの首飾り”の軽妙な音楽に乗って、本格的なマジックショーが始まった。イヌの少女は次から次へとマジックを披露して、それをことごとく成功させていった。
会場のボルテージも徐々に高まり、いつしか頂点を迎え始めたところで観客からの大きなコールが響きわたった。
「れにちゃんの、ちょっといいとこ見てみたいッ!」
そのコールを合図にBGMが荘厳な雰囲気の曲調へと切り替わり、会場には得も言われぬ緊張感が漂い始めるのだった。
「よーし、それじゃあ次は『幽体離脱』という、とっておきのマジックに挑戦するよ! これはまだ一度もお見せしたことがない、究極の脱出マジックだぁ!」
「ウォォォォォッ!」
興奮する観客の目の前に巨大な水槽が登場した。そしてそのわきに真っ黒な「棺桶」が運ばれてきた。
「まず最初に、あたしをこのチェーンでぐるぐる巻きにして、あちらの棺桶に入れます。次に釘を打ってしっかりとフタを固定します。そしてそのまま水槽の中に棺桶を沈めます。1分以内にあたしは棺桶から脱出して、ふたたびみなさんの前に現れます!」
「イェェェェィッ!」
「実はこの棺桶にはとても怖い仕掛けがあります。なんと、1分経過すると外側のパネルが溶けて、水槽の水が中に侵入してしまうんです!」
「な、なんだってー!!!」
観客は興奮したが、ももたろうと閼伽凛皇女の目にはそれはとても危険で、かつ無謀な挑戦に映った。
「それではまず最初に、あたしをチェーンでぐるぐる巻きにしてくれるアシスタント二名を、会場のお客さんの中から指名しちゃおうかな。それじゃぁ…あ、そこのおふたりさん。ステージへどうぞ」
なんと、ももたろうと閼伽凛皇女がアシスタントに指名された。ふたりはすこしおどおどしながらもステージに上がった。
そしてふたりはイヌの少女の指示に従って、なれない手つきで、それでもなるべく丁寧に作業をこなした。
すべての準備が整い、ついに棺桶が水槽に沈められた。それを観客が見届けてから、水槽全体に黒い布がかけられた。
それを合図に、会場に鳴り響くドラムロール。もうここからは時間との戦いであった。
ドゥルルルルルルルルルルルル~
会場の中に緊張が走る…。
ドゥルルルルルルルルルルルル~
いかに天才マジシャンである感電少女とはいえ…。
ドゥルルルルルルルルルルルル~
さすがにこの状況からの脱出は難しいのでは…?
ドゥルルルルルルルルルルルル~
会場全体がかたずを飲んで水槽を見守る…。
ドゥルルルルルルルルルルルル~
でも彼女なら、きっと…。
ドゥルルルルルルルルルルルル~
んっ?…あれっ?